羽沢ガーデン解体工事着手前日の写真たくさん(解説コメント入り)

2011年10月3日、東京都渋谷区広尾の「羽沢ガーデン」の解体(準備)工事が、開発業者によって予定通り着手されました。

解体(準備)工事が着手される前日の2011年10月2日早朝に、羽沢ガーデンの地を訪れ、写真に納めてきました。flickrでスライドショーを公開したところ、大変反響をいただきましたので、いつくかの写真にコメントを入れて、改めて紹介したいと思います。なお記述の中には、報道資料および2011年3月11日に公表された、「羽沢ガーデンの学術的鑑定書」からの引用があります。

2005年12月より閉鎖されたままの門扉

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The Hanezawa Gardenの営業終了後、閉ざされたままの門扉。優雅で風格ある造りの腕木門。両開きで車が通れるようになっている。門をくぐると、そこは別世界で、ひんやりとした森がそこにある。ゆるく左にカーブしたアプローチを登ると、玄関が見えてくる。

昨年11月に行われた裁判所による現場検証(後述)の際にも、正門扉は開けられることがなかった。次にここの門を通る車両は解体工事車両となってしまうのだろうか。門扉左手の石垣にかつて、ゴールド色の「The Hanezawa Garden」の看板がかかっていた。

ビアガーデン・テラスの出入り口

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羽澤ガーデンには、本館(屋敷)とテラスの2ヶ所の結婚式会場があったが、そのテラス会場の出入り口になっていた場所。ビアガーデンに訪れた方もいるのでは。扉にはトタンが貼られ、中の様子をうかがい知ることはできない。24時間警備中の文字が、日本語、中国語、韓国語で書かれている

ほんの少しだけ中が…

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背を伸ばすと、トタンの上から、少しだけテラスの様子が見えた。屋根があるところの下が、新郎新婦が座る上座となる。灯籠などが配された和風庭園。右手に進むと立派なマツが植わっている。ちなみにこのガーデンから上の庭の建物を見上げることも出来、上下の庭をつなぐ道は森の中の小さな小道のようになっている。結婚式会場の下見の際などに、実際に歩くことができた。

敷地南面の道路より

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緑が生い茂っていることがわかる敷地の南側。西に向かって上り坂となっている。坂の中腹にはツタのはった建物の背面が見て取れる。厨房か事務局だろうか。ミラーの下に掲示してある白いものが「解体工事のお知らせ」である。これについては後述。

解体工事のお知らせ、および経緯

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敷地の東西南北4箇所に掲示されている「解体工事のお知らせ」。発注者等の欄に「三菱地所レジデンス株式会社」、解体工事の工期は「平成23年10月3日〜平成24年5月31日」、標識設置年月日は「平成23年9月2日」とある。これは、今年の8月5日付けで三菱地所レジデンスが渋谷区に解体届を提出し、渋谷区が受理したことを受け設置されたもの。

この地の開発計画をめぐっては、文化人や地域住民らの間で反対運動が活発化し、平成19年には地域住民約30人が、開発許可の差し止めを渋谷区などに求める住民訴訟東京地裁に起こしている。平成22年11月には地裁による現場検証が行われ、検証に基づきまとめられた建築や歴史の専門家の鑑定書では「(羽沢ガーデンは)重要文化財特別名勝」とされた。

今回の解体工事着手を受け、反対側は「係争中であるにも関わらず、解体することは証拠隠滅に他ならない」と批判、一方事業者側は「会社の遊休資産の活用は当然」と主張、解体届を受理した渋谷区は「私有地である以上、区条例に従い届出書を受理するのは当然のこと」との立場を取っている。

なお報道によると、解体初日の10月3日には、作業員が足場などの資材を搬入したり、重機を入れるスペース作りに着手、電線にかかっていた樹木を剪定(せんてい)するなどの安全対策工事を実施したとのこと。本体の解体は11日以降の予定。

今なら、真ん前の土地が1億6580万円で買えるよ!

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かつて駐車場として使用されていた羽沢ガーデン正門前の土地は、羽澤ガーデン所有会社の経営者が個人で所有していたもので、平成19年、羽澤ガーデンの開発計画が発表された時点では将来的に提供公園になる予定地だった。しかし、今年の8月に分譲販売された。正門の真ん前にあたる角地は分譲後、即成約したようだ。先着2名、まだ買えますよ!

東側から敷地を望む

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これを森と言わずして何と呼ぼうか。空港写真を見ていただければわかるが、敷地の北部・東部は広大な緑に覆われている。たくさんの木々が鬱蒼と生い茂り、あたかも「となりのトトロ」の裏の森のよう。かなり大きな樹木が多数点在し、この日も鳥のさえずりが盛んに聞こえた。公表されたマンション開発計画では、この部分を含め、敷地一杯に建物が建造される。

敷地北側・西側

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こちら側は、敷地の裏手に当たるので、羽沢ガーデンを訪れるお客にとってはゆかりの無い方角だが、ご覧のとおり溢れんばかりの緑である。北側には竹林がある。渋谷区とは思えない静寂がここにある。

裏口より

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裏手の最も奥まったところに、裏口がある。こちらからも車両の出し入れが出来るようだ。格子の向こう奥に、屋敷の端が少しだけ見えた。ちょうど彼岸花が咲いていた。

訪問を終えて

当然ながら敷地の中へ入ることは出きませんので、肝心の屋敷の様子をうかがい知ることは出来ませんでしたが、昨年11月に裁判官が現場を訪れて実施された現場検証において、数年間放置されていた割には、大変良い保存状態であったことが確認されたそうです。

私は、在りし日の羽沢ガーデンを訪れ、至福のときを過ごさせてもらった一人です。それほど多くの回数ではありませんが、邸宅に、ガーデンに、そしてお庭に足を踏み入れたあの経験は、思い出と言うよりは、今となっては宝物のようです。お客として出来る恩返しは、何度も足を運ぶ事しかないと思っていたのですが、2005年の閉鎖以降、それすらもできなくなってしまい、大変寂しい思いをしています。

景観の美しさを周辺住民らが享受する「景観権」をめぐる議論はまだ未熟で、近年、住民訴訟で原告住民側が勝訴する裁判例が出つつありますが、こと羽澤ガーデンに関しては、迫り来る開発の前に地域住民の望みは、皮の一枚どころか蜘蛛の糸で繋がっている状態です。「叶うのであれば、もう一度羽澤ガーデンのレストランで妻とディナーを食べたい。」という一筋の望みを持ち続け、裁判の行方を注視していますが、予定通り解体がなされてしまった末には、その前提がなくなり、望みは完全に絶たれることになります。

下世話なことを言いますと、3千坪で80億円だそうです。先日、秋葉原の駅前のビルを90億円で一棟買いした個人の方が居られましたが、誰か救世主いませんかね?テレビ局を買収するよりはお安いかと…

  • 別の写真も含めたスライドショーはこちらです。